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ココロたん、あらわる

「怪しい影が迫っているぞ!払ってやるから寄っていけ!
…おい、そこの若いの!お前の事だ!!このまま放っておくと死ぬぞ〜!!」
早速わけのわからない輩に声をかけられるとは変なところに来てしまったものだ。
それは大道寺氏が引っ越してきた日の夜に町を散策していたときの出来事だった。
大道寺氏がこれから初めての一人暮しをする町だ。
悪いことというものは続くらしい。
氏が携帯ストラップを指にかけてくるくると回していたら飛んでいってしまった。
橋の下めがけて勢い良く。
幸いにしてポチャンという絶望的な音は聞こえなかった。
欄干から身を乗り出して覗き込んで見ると干上がった川岸のくさむらに落ちたらしいことがわかった。
しかし慌てて広いに行ってもすぐには見付からなかった。
百メートル程の幅がある川のうちほんの数メートルくらいにしか水は流れていない。
残る数十メートルは膝くらいまで伸びた草が大いしげっている。
この中のどこかに落ちたんだろう。けれども夜の暗闇の中から見つけるのは絶望的だ。
灯りといえば橋の上をときどき通る車のヘッドライトくらいのものだ。
氏はあきらめて堤防の斜面に腰を降ろした。
着信でもあれば派手なイルミネーションとメロディでその居場所を教えてくれるだろうと期待して。

「あの……助けてもらえませんか?」
背後から幼い声がした。
振り向くとまるでどこかのコスプレ会場から出てきたような、異様な服装をした少女が立っていた。
レースクイーンのように肩と足を必要以上に露出している。
上半身のボディラインがわかるほど体にフィットしたスーツと、
パンツが見えそうなほど膨らんだスカートだ。仮に履いていたとすればの話だが。
必要以上に大きな帽子まで全てオレンジ色に青いストライプの入った目立つ色をしている。
年の頃は10代になりたてといったところだろうか。
そんな子がこんな時間に人気のない川辺を歩いていたら、
危険な事の一つや二つ襲ってきても不思議はない。
しかし、困っている少女に手を差し伸べるのが大人というものだ。そうだろう?
「どうしたの?」
「お家に帰れなくなってしまったんです…」
「迷子??家どこ?…って聞いても僕もこの辺の地理は良く知らないけれど…」
「ブログ妖精界です…」
一瞬、氏は我が耳を疑った。
「…どこだって?」
「ブログ妖精界です!」
「そっか〜、遠くから来たんだね〜…」
などと言ってはみたものの、氏は困ってしまった。
せっかく絵に描いたような可愛い少女が助けを求めているのだから助けてあげたいところなのだが、
妖精界とかいうファンタチックなところに足を踏み入れることが許される年齢ではない。
だからと言って、このままこの少女を見捨てることなど氏にできるはずもなかった。
「それってどの辺にあるのかな?って言うか、そこからどうやってきたの?」
「わかりません…。むーちゃんとどっちが速く走れるかって競争してただけなんです。
ココロが1Tbpsくらいで走ってたら何かにつまずいちゃって…。
こけて起き上がったらあそこにいたんです…」
そう言ってココロたんはくさむらを指さした。
氏はますます困った。
電車できたとか、車できたとか、そういう答えを期待していたはずなのだが…。
さらに困ったことに、ココロたんは真剣で今にも涙が溢れ出しそうな瞳で氏を見つめている。
「よし…、じゃあ警察に行こう」
氏は自力で解決することをあきらめた。
「えっ!?…ココロ何も悪いことしてないですよ…」
ココロたんは不安そうに言った。
「大丈夫だよ、お巡りさんも小さな女の子には優しいからね。
大丈夫!なんとかなるよ。絶対に大丈夫だよ!
大きな力で助けてくれるよ!そのために税金払ってるんだからね?」
そして氏は立ち上がった。
「あっ、携帯探すんだった…」
「携帯なくしたんですか?よければココロが鳴らしますよ?」
「そうしてくれる?と言っても電話番号は覚えてないんだけど…
メールアドレスでもいいかな?」
「はい。ではどうぞ!」
「全世界ネコミミメイド化計画@ドコモのなんとかかんとか…」
なかなかに珍しいメールアドレスを聞いても、
ココロたんは驚きもせずに携帯をぽちぽちと操作した。
ほどなくミクの歌声が静かな川辺に響いた。
そして光輝く氏の携帯は無事発見された。

「ココロ子供じゃありませんっ!」
氏が子供扱いをしたからご機嫌を損ねたのだろう。
「ココロたんは何歳?」
「1万11才です」
「それは…ブログ妖精歴で数えるのかな?」
「はい。でも西暦で数えてもきっとあなたよりも年上ですよ」
仮にその話を信じるとするならば、ブログ妖精というのは人間よりも発育に時間がかかるのだろうか。
一説に依るとブログ妖精の1万11才は人間の11才に相当するらしい。
もっとも、仮説であるから信じる信じないは自由だ。
そんな話をしながら氏とココロたんは真っ暗な堤防沿いの道を歩いていた。
そこにタイミング良くパトカーが通りかかった。
親切にも氏が呼び止めようとするよりも先に止まってくれた。
それは氏がお巡りさんを引き止めるようなオーラを放っていたからかもしれない。
「こんなところで何してるの?」
そう言いながら二人のお巡りさんが降りてきた。
「この子が迷子になったみたいだから警察に届けようと思っていたんだけど」
「この子?どの子?兄ちゃん一人だろ?」
「一人??僕の隣に女の子がいるでしょ?」
「隣!?」
お巡りさんは二人揃って氏の左右を持っていた懐中電灯で照らして姿を探してみたようだ。
「誰もいないじゃないか。兄ちゃん飲みすぎたんじゃないのか?送ってやるから乗りなさい」
二人の警察官はよくいる酔っ払いとして処理する気のようだ。
変質者に拐かされそうになっている少女の存在を、
見て見ぬふりをしようなどと企んでいるようには思えなかった。
氏はさらに困惑した。
隣を見れば氏の胸くらいの高さの少女が確かに不安げな表情を浮かべて立っているのだが。
氏はパトカーの後部座席に乗せられた。
「ちょっと待って!」
外から警察官がドアを閉めようとするのを氏は制止した。
「もう一人いるから!」
「はいはい」
警察官は呆れた様子ながらもドアを大きく開いてくれた。
その隙にココロたんは氏の隣に乗り込んだ。
「兄ちゃん、もういいか?閉めるぞ」
この警官には本当に姿が見えていないのだろうか。
結局最後まで氏はただの酔っ払いとして扱われた。
氏がマンションのドアロックを開錠したところを見届けると警察官は帰っていった。
氏とココロたんは顔を見合わせ、困惑するしかなかった。

続く
    

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