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2008/04/07に書いた日記

「オタク」と言うものに俺は生まれて初めて遭遇した。
昨日までオタクというものはテレビの中か、
空想の都市秋葉原にしか存在しない架空の生き物だと思っていた。
ユウレイ、ツチノコ、オタク、みたいな空想上の生き物だと。
でもそれは確かに存在していた。しかもこんな田舎のありふれた中小企業に。

1週間ほどの適当な新入社員研修が終わって今日から配属先で働くことになった。
初日の今日は部長から紹介をされた。
まず俺が自己紹介すると、次に先輩たちが順番に自己紹介をしていった。
一度に二、三十人も自己紹介されたって覚えられるわけないのにさ。
でもこの一度で覚えてしまわないとあとで名前がわからなくて困ることになるんだろうな、
なんて思ったものだから俺は真剣に聞いていた。
それなのに一人だけ気の抜けた人がいた。
みんな真面目に、と言うか普通に自己紹介しているのにこの人だけ少し変だった。
「大道寺です。今担当している仕事は…えーっと…何だろう?寝ることです」
このとき何故か笑いが起こった。俺以外のみんながくすくすと笑っていた。
でも俺には何がおかしいのかさっぱりだった。
って言うか、寝ることって何だよ!?
「好きな花は百合です。嫌いなものはやさいです」
大道寺さんは何故か一人だけそんな余計な一言を付け加えた。
この言葉の意味は俺にも、他の人にも全くわからなかった。
「よろしくお願いします」
と言ったあと、次の人の紹介に進んだ。

大道寺さんの第一印象は、「やる気のない人」だった。
良かった、世の中こんなダメ社員もいるんだ!それなら俺もなんとかやっていける!
という希望を与えてくれる人だった。
ちなみに大道寺さんは見るからに若そうだった。
実際、俺よりも年下だった。
俺は一浪して大学に入り、その後順調に修士課程まで終えて就職した。
大道寺さんは学部卒で俺よりも二つ下だそうだ。
けれど今年で入社二年目だから俺の先輩ということになる。

俺は今日からOJTとかいうものをやることになった。
先輩の指導を受けながら実務をこなす教育方法、みたいなものらしい。
俺の指導役の先輩は入社八年目の高橋さんだった。
高橋さんと二人で小休憩中、
適当な雑談の合間に俺は今朝から気になっていたことを聞いてみた。
「大道寺さんってどんな人なんですか?仕事が寝ることだって言ってましたけど?」
「あぁ、見てたらわかるよ。本当に寝てるから」
「えっ?マジですか??寝てるんですか!?仕事中にですか??」
「まぁ見てればわかるから」
そう言われたってにわかには信じられないことだ。
会社って言うところは、遅刻、居眠り、サボり厳禁の厳しいところだと思い込んでいたんだからさ。
結局今日は『寝てる』の意味がわからなかった。
だって自分の仕事に精一杯で男をじろじろと見つめてる余裕なんかなかったんだ。

そう言えば、今日は大道寺さんから仕事を引き継いだ。
仕事の内容を一言で言ってしまえばパソコンのサポートセンターだ。
部署内のOA関係の管理をする。
事務のお姉様方のパソコントラブル対応とか、
プリンタやコピー機のお守りとか、
新入社員のパソコンの準備とかをするらしい。
そう言うわけで俺のパソコンは大道寺さんが準備してくれていた。
ポチッと電源スイッチを押して、Windowsが立ち上がるまでの間、
大道寺さんは会社でパソコンを使う上での注意事項を教えてくれた。
会社指定のメールソフトの使い方とか、
業務に関係のないメールのやりとり禁止、関係のないサイトを見るの禁止とか、
その程度の事だ。
それから、Windowsのデスクトップが表示されて俺は一瞬言葉を失った。
「あの…大道寺さん…なんか壁紙が変なんですけど…?」
それは明らかに変だったんだ。その壁紙が何なのかはわからなかったけれど、
明らかに異質な電波を放っていることが直感でわかったから。
「変ってことはないでしょ??かがみ様だよ?」
「誰ですか?それ??これは何かの冗談ですか??」
俺はてっきり大道寺さんの冗談だと思った。そうやって新人の俺をからかっているのだと。
でも違ったらしい。
「らき*すたのかがみ様だよ、知らないの??」
「知らないですよ…」
「そうか〜…人気だったんだけどね〜」
大道寺さんは少し残念そうだった。
「あの…壁紙ってこれじゃなきゃダメなんですか?」
「あぁ、好きなのに勝手に変えるがいいさ!」
大道寺さんはそう吐き捨てると自分の席に戻ってしまった。
俺はひょっとして大道寺さんを怒らせてしまったのか??
そしてこれが噂に聞く…萌え…と言うものなのか!?

「大道寺さんって…少し変ですか?」
俺はこっそりと高橋さんに相談してみた。
「あの人はオタクだから」
高橋さんはそう言った。
俺は生まれて初めてオタクと遭遇した。
そうか、オタクはあんな絵が好きなのかと初めて知った。
それじゃあ大道寺さんのパソコンは一体どんな壁紙になっているのかと気になってしまった。
俺が帰るときちょうど大道寺さんが席を外していたから覗いてみようと思った。
けれどスクリーンセーバーが起動していたから壁紙は見られなかった。
でも俺はスクリーンセーバーを見てしまっただけで十分だった。
二次元の女の子がスライドショーになって次々と画面に映し出されていたんだから。
なんだかこのパソコンには触れてはならないような気がしたから、大人しく帰ってきた。

大道寺さん、あの人一体何の仕事してるんだ?
って言うか本当に仕事してるのか!?
ひょっとして本当に寝てるのかっ??!
    

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