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俺の上司は痛車使いでした

休日出勤をしたこの日、俺は大道寺さんの愛車を初めて目にした。
そして驚愕した。
やっぱりこの人は超オタクだ。
誰の目にも明らかな程に。

俺の会社は自家用車での通勤は禁止されている。
駅前という立地条件の良さと、駐車スペースが皆無に等しいことがその理由だろう。
来客用駐車スペースが辛うじて数台分確保されている程度だ。
だから当然平日は自家用車での出勤はできない。
会社の外に駐車場を借りれば別だが、
そんなことはよほどの給料をもらっている人でない限り無理だ。
けれども、休日ともなれば話は別だ。
休日出勤する人はかなり少ない。
そしてそのほとんどはわざわざガソリン代を自分で負担してまで車で出勤しようとせず、
いつもの様に定期を利用して出勤してくる。
車で来るのは一部の車好きだけだろう。
その証拠に休日の狭い駐車場は見事にスポーツカーばかりがひしめき並んでいる。
中には派手にチューニングを施した車まである。
その光景は少しばかり異様なものともいえる。
けれども、そんな車の中で大道寺さんの愛車は一際目立っていた。
きっと隣に昨日世界選手権を戦ってきたばかりのレース仕様のマシンが並んでいたとしても、
それすら存在が霞んでしまうかもしれない。
それくらい大道寺さんの愛車は目立ちすぎていた。

「いたしゃ?」
俺は初めて耳にしたその言葉の意味を大道寺さんに教えてもらった。
「そう、いたしゃ」
「イタリア製の車って意味ですか?」
「違うよ、僕の車はイギリスのロータス製だから。
いたしゃっていうのは痛い車って意味だよ。漢字でこう書くの」
『痛車』
「大道寺さんの車みたいなのをそう呼ぶんですか?」
なる程、確かにあの車は痛い。塗装が痛い。痛々しい。見ている俺の頭が痛くなりそうだ。
って言うか、あんな塗装で街中を走り回るなんて何かのパフォーマンスか、
危ない人にしか見えない。
「それで、あの子もアニメか何かのキャラクターなんですか?」
あの子、とは大道寺さんの車のボンネットに、屋根に、ドアに、
車全体に描かれている女の子の事だ。
「なのはたんだよ?知らないの??」
「すみません…、勉強不足です」
なのはたん?その名を聞いて顔をイメージできたら
たぶんオタクの領域に片足くらい突っ込んでる人だ。
「まぁ一言でいうと魔法少女だよ。
でもそろそろキャラチェンジしようかな?って思ってるんだけどね」
「あみゅれっと何とかって言うやつになるんですか?」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだけどね。
次は風子たんにしようかなって思うんだけど」
「そうですか…」
やっぱりそんな子知らない。知るはずがない。
ちなみに風子マスターの称号を得た人はもはや一般人を称することは許されない。
経歴詐称の罪に問われることになる。
「ところであれってシールかなにかですか?」
「まぁそんなところかな。特注のステッカーみたいなやつ。業者に頼んでやってもらうんだよ」
「そんなことしてくれる業者もいるんですね…。
って言うか、ひょっとして高かったりするんじゃないんですか?」
「まぁ安くはないけれど~…それもキャラへの愛だよ!」
「って言うか、エリーゼですよね?大道寺さんの車。
あれも安くないですよね??」
本当、驚きだよ。あんな塗装で走り回るのにも驚きだけれど、
六百万円弱もする車をあんなにしてしまうとは…
なんて馬鹿な事をするんだ!オタク共は!!

「って言うか、大道寺さん二年目でそんなに高い車が買えるんですか!?」
「まぁローンだし、実家でパラサイトシングルしてるし、収入の半分は車に使ってるし、
僕の嫁はお金のかからない二次元世界の少女だし、まぁ何とか買えたよ」
なるほど、と俺は一瞬納得しかけた。
けれど、大道寺さんの机の上に並んでいるフィギュアを見て思った。
確かあれも数万円はしたと言っていたはず…。
おまけにまた安くない金を払って別のキャラの塗装をするとか言っている。
収入の半分以上を車に注ぎ込んでいるのにまだそんなに余裕があるのか?
と疑問に思ったんだ。
「ところで、大道寺さんの給料ってどれくらいですか?」
「禁則事項です」
即答された。そりゃそうだ。まぁそう簡単には教えてくれないだろうとは思ったけれど。
「ひょっとして俺よりも多かったりするんですか?」
「沢村さんは修士で入社したんでしょ?お給料は募集要項に載ってる初任給と同じ額なの?」
「はい、そうですけど…」
おれはちょっとドキドキしながら大道寺さんの答えを待った。
「そっか…。じゃあ聞かない方がいいと思うよ?」
「それは一体どういう意味ですか??」
「まぁとりあえず沢村さんより多いとだけ言っておくよ」
ショックだ!
もちろん学士の初任給は少し低い。もちろん大道寺さんだって去年はその給料のはずだった。
それがたった一年で修士の初任給を上回るというのか!?
「ひょとしてこの会社っていい感じに昇給するんですか?」
「う~ん…人に依るんじゃない?僕はちょっとびっくりしちゃったけどね。
まぁ昇進させられちゃった分もあるけれどね」
「えっ!?」
昇進!?いま昇進って言ったのか、このオタクは!!
「つまりそれって、大道寺さんは先輩って言うよりも上司ですか?」
「そう言うことになるのかな?」
さらにショックだ!
この会社はどうかしてるんじゃないのか?と思わずにはいられなかった…。
まさかこんなばかやろぉが俺の上司だったとは…。
とりあえず俺もお人形遊びを始めれば来年は課長くらいにはなれるんだろうか?
    

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