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お願い、許して…痛車に乗せないで
今日は憂鬱な休日出勤だった。
まだ少し仕事が残っていたけれど今日は天気も切りも良かったから
大道寺さんと一緒に会社を出ることにした。
「家まで送ってあげるよ?」
今日も痛い愛車で出社していた大道寺さんがそう言ってくれた。
「いいですよ、電車に乗ればすぐに帰れますから」
「まぁそんなことを言わずに、乗せてあげるよ?」
別に俺は遠慮しているわけじゃない。
本当に心底嫌だったんだ、大道寺さんの車に乗るのが。
ボディ全体に魔法少女が描かれている痛い車に乗るのが。
それもまだ日も沈んでいない、夕暮れ時だというのにだ。
これが草木も眠る丑三つ刻とかなら何とか我慢できたかもしれない。
しかし、まだ明るいうちにあの車の助手席に乗って
人通りの激しい駅前を突破するのは無理だ。不可能だ。御免なさい!許してくれ!!
「ガソリン代請求したりしないから乗って!」
と言われたから、俺は渋々助手席に乗り込んだ。
けれど、車内はいたってまともだった。
ただ、ボンネットに描かれた絵が目に入ってくる以外は…。
大道寺さんが車に乗り込むと突然タッチパネル式の液晶画面が現れた。
そこに暗証番号を入力するとスピーカーから音声が再生された。
『Standby ready. Set up!』
「なんですか?これは」
「盗難防止装置だよ。これを入力しないとエンジンがかからないんだよ」
「へぇ~、こんなハイテクなのが売ってるんですね」
「これは売ってないよ。自作だから」
「えっ!?大道寺さんが作ったんですか!?」
「そうだよ。だってこんなのくらい作れるでしょ?」
確かに、俺たちはこういうものを作るエンジニアだ。
とは言っても、こんなものが一日二日で完成するとは考え難い。
結構な手間暇と金がかかっているはずだ。
それをあっさりと作ってしまう大道寺さんの情熱はさすがオタクと言ったところか。
「でもドナ・バークさんの声集めるの大変だったけどね」
それ誰ですか?なんて事は聞かないことにしておいた。
どうせ聞いたって俺なんかが知っているはずのない人なのだろうから。
「でもオープンカーじゃ屋根を切られたりしないんですか?」
大道寺さんの車は布製の帆が付いているオープンカーだ。
「それもセンサーを付けたんだよ」
と大道寺さん。
「本当は音声認識をさせて、パスワードを言わないと動かないようにしたかったんだけどね、
やっぱりそれはちょっとハードルが高かったよ~」
「ひょっとしてパスワードって何かの呪文だったりするんですか?」
「もちろん、レイジングハートを起動させる呪文だよ?」
「なんですか?それは??」
「まだなのはたん見てないの??まぁ見ればわかるよ」
「そうですか…」
まぁ俺は見るつもりもないけれど。
「ちなみにこのシステムの名前はレイジングハートだよ。
でも、きゃらを風子たんに変えたら、名前も変えなきゃ変かな??」
「大丈夫ですよ」
もう、この車は既に致命的に変ですから、少しくらい変な度合が増しても変わりはしませんよ。
それから俺は上着を頭からすっぽりかぶった。
警察に逮捕された容疑者がマスコミの中を通り抜ける姿をイメージしてほしい。
俺はまさにそんな感じだった。
俺が一体何をしたっていうんだ!?どうしてこんな目に遭わなければいけないんだ??
なんの罰だというのだ!?俺は無実だ!!
それなのに、周囲を通り過ぎる人の視線が突き刺さるように痛い!
まだ走っているうちは良い。
赤信号の先頭でうっかり止まろうものなら、
横断歩道を行き交う人の視線を集めてしまうんだぞ!
道路交通法なんて無視しちゃっていいからとりあえず一刻も早く、
光よりも速く、誰の目にも止まらないように走ってください!
と心の中で叫んだ。
それなのに大道寺さんは極めて安全運転をしていた。
「だってこの車目立つでしょ?だからマナー良くしておかないとね。
別に僕がどう思われようとそんなのは気にしないんだけどね。
でも、なのはたんまで悪く思われちゃったら困るからね」
と言っていた。
だったらそんな痛いことは止めたらどうですか?
なんて口にするのは野暮な事なのだろう。
「音楽でもかけようか?」
少しばかり会話が途切れた隙に大道寺さんはそんな危険な提案をした。
「大丈夫です!!俺、静かな方が好きですから!!」
もちろん嘘だ。そんなの嘘だ。
でも、俺は絶対に大道寺さんに音楽をかけさせたくなかった。
だってそうだろう?オタクの聞く音楽なんてアニメソングしかないに決まってるじゃないか!?
ただでさえこの痛い車なのに、その上電波なアニソンなんて漏れだそうものなら、
と想像するだけで寒気がする。
しかも、屋根は布だけというオープンカーなんだから、音は外に漏れやすいはずだ。
このまま誰にも見付からないでくれ!!
と俺は車内で小さくなりながら必死に祈り続けていた。
これは一体なんの罰ゲームなんだ!?
俺が一体何をしたっていうんだ!?
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