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それは彼女いない歴うん十年のオタクを救うNGOの人だ
「あの子、可愛いよね」
休日出勤をしていた土曜日の夕方。
大道寺さんは5階の窓から下をぼんやりと眺めながらそんなことを呟いた。
「どの子ですか?」
俺も大道寺さんの隣から下の道を通っている人の群に視線を落とした。
「あの子。ちょっと背が低めで、セーラー服っぽい制服を着た子」
俺もすぐにその子の姿を群の中から見つけ出すことができた。
部活帰りの中学生か?ひょっとしたら小学生かも…。
そんな少女だった。可愛いか?と言われれば、それは疑いようのない事実だろう。
しかしどうしてだろう。大道寺さんからそんな言葉を聞くと、
とても危険な香りがする…。
「腰まで伸ばした黒く黒く艶やかな髪。それを姫カットにしたあの子こそ我妹にふさわしい!
きっと知世という名に違いない!!そう、あの子は我妹になるために生まれてきたのだ!
僕は知世という名の妹を迎えるために大道寺という名字なのだから!!」
今、大道寺さんを部屋から出したら事件が起こりそうな予感がしたのは、
考え過ぎだろうか?
「大道寺さん、俺が社会のルールを教えましょうか?」
「って言うか、デートじゃないんですか?後は俺が片付けておきますから
大道寺さんは早くデートに戻った方が良いんじゃないんですか?」
「もうダメだよ…十回以上着信拒否しちゃったし…もうダメだよ…」
大道寺さんは一体何を恐れていたのか俺にはわからなかった。
そんなとき、大道寺さんの携帯が電波な音を鳴り響かせてメールの受信を告げた。
ぱかっと携帯電話を開いてそれを確認した直後、大道寺さんは携帯電話を床に落とした。
その顔は恐怖で凍り付いているように思えた。
「どうしたんですか?彼女がそんなに怒ってるんですか?」
そう言いながら俺は床に転がった携帯電話に手を伸ばした。
それを拾い上げながらさりげ無く画面を確認した。
大量の改行の後、最後の行に一言『さよなら』と書かれていただけだった。
送り主の名前は…世界?
「………どうしよう…?帰ったら刺し殺されそうな気がしてきた…」
大道寺さんは震える声でそんなことを呟いた。
「どうして殺されるんですか??」
俺にはこの文面からはそんな殺意は全く感じられなかったのだが…。
とりあえず、こういう場合は一刻も早く戻って謝った方が良さそうな気がする。
でも、きっと狂気乱心した大道寺さんの彼女は猟奇的なまでに凶暴なのだろう。
「そんなに怖い彼女なんですか?」
「…えっ?彼女じゃないよ??」
大道寺さんは少し驚いたような声をあげた。
しかし俺はそれ以上に驚いた。
「デートの相手が彼女じゃなければ、一体誰なんですか!?」
「禁則事項です」
またそれかよ!!
こうしてまた一つ、夜も眠れない程気になって気になってしかたがないこの世の不思議が増えた。
彼女以外にデートする相手とは一体…?
しかも、オタクの大道寺さんの相手をだ。
彼女いない歴20年以上の人を救済するボランティア団体かNGOの人なのか?
それとも俺の知らないところで少子化に歯止めをかけようと、
政府が動いたのか?
オタクの遺伝子でも、子供がいなくなるよりはましだということか?
まぁなにはともあれ、二十代の社会人が刺殺されたとか、
首の無い遺体が見付かっただとか、
そんなニュースを聞くことは無かった。
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