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わがままな女の子が好きだ!と言う奴こそわがままだ!!

「あぁ…。見るからに無能そうな顔してますよね」
そんなことを面と向かって言うやつがいただろうか?
俺はいまだかつてそんなやつを見たことがない、
とほんの数秒前までなら言っていたことだろう。
でも今はもう違う。今さっきそいつは俺に向かって言いやがった!
そいつは美奈という名の大道寺さんの妹だ!!
彼女の怖れを知らない無敵さは正しく大道寺さんの妹の証であるとも言える。
高校一年生の、まだ15才の、俺よりも10才も年下のガキの分際で、
俺に面と向かってそう言い放ちやがった!!
その言葉は俺の中で何度も反芻され、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
いつの間にか俺が手にしていたコーヒーカップが
カタカタと音をたてながら震え、コーヒーが波打っていた。
俺は全身にみなぎる爆発しそうな力を必死で抑え込んでいた。
大人は無闇にキレることが許されないんのだよ。
そんな俺を見て、クスッと小生意気に笑いやがった!
「子供の私にそんなこと言われて怒っちゃうなんて、器の小さな人なんですね〜?
それとも、図星だったりしましたか〜?」
とうれしそうにぬかしやがった!!
腹の底から殺意のようなものが沸き上がってくる気がした。
大人の恐さを思い知らせてやる!!と、言いたいところなのだが、
俺にはそれが許されない…。

恐い恐い世間の目と、危ないお兄ちゃんに守られた少女に手を上げることなど許されるはずがない。
もしもあのにくたらしいほどきれいな顔に傷でもつけようものなら…
俺の人生はそこで終わりを迎えることになるだろう。
間違いなく俺は即日無職確定だ。大道寺さんには人事権などなさそうな気がするのだが、
俺を首にするくらいの力は隠しもっていそうな気がする。
もっとも、それはその場で逆上した大道寺さんに切り刻まれずに、
生き長らえることができればの話だが。

そして更に恐ろしいモノがある。
専業主婦という名の工作員、通称オバサンだ。
特に情報の収集と操作に関して比類を見ない能力を持っており、
CIAやSISといった世界の名立たる情報機関も一目をおく日本の民間諜報員だ。
パートタイムのオバサンたちから構成される特務機関
Nippon no Eekagenna uwasa wo RuFu surutameno団、
通称NERFの存在は公然の秘密だ。
ちなみに非政府組織とされ、日本政府は一切の関与を否定している。
彼女たちの手にかかれば、
商店からトイレットペーパーを消し去ることも、
金融機関をつぶし経済を傾かせる事も、
生意気な小娘アイドルを闇に葬りさることさえ不可能ではない。
オタクが秋葉原外に侵攻できないでいるのもひとえに彼女たちの工作活動の賜だ。
中でも、団地のオバちゃんと呼ばれる精鋭中の精鋭たちは、
独身OLのスリーサイズから彼氏の数、帰宅時間、近所の家庭のごみ袋の中身、
近所のガキの通知表の数字、果ては宇宙の真理までもを把握している、
人知を越えた存在だ。

今、俺の座っている席の回りはそのオバサン達に囲まれている。
あどけない少女の顔に痣をつける野蛮な男を目撃した彼女たちのとる行動は想像に硬くない。
俺はおろか俺の家族までも日本で生活できなくさせられてしまうことは火を見るよりも明らかだ。
だから俺はぐっと我慢するしかなかったんだ。
きっと大道寺さんが甘やかしているからこんな生意気になりやがるんだ!
世間の厳しさを知らないガキめ!
世間をなめていたら社会に出てから苦労するぞ!!
と言ってやりたいところだけれど、きっと輝く程の学歴を経るであろうこの小娘は、
さほど苦労もしやがらないんだろうなぁ…。
正に絵に描いたような美少女、そう形容しうるほど可愛いわけだから、
数年もすれば、黙ってさえいれば道行く人が振りむくほどにきれいになりやがるんだろう。
きれいな女は苦労などしなくても、涼しい顔をして人生の荒波を乗り越えていけるというのは
もはや常識といっても過言ではないだろう?
馬鹿な男共のせいでさ。
あぁ、そう思うとこの小生意気な顔が一段と憎く思えてくる。

結局、俺は気分が悪いまま店を出ることになった。
大道寺さんが奢ってくれるなどと言い出したが、丁重にお断りしておいた。
一応会社では先輩だが、一歩外に出れば俺の方が年上なわけだ。
おまけにそんなことを妹の目の前でさせたらお兄ちゃんの株が上がってしまうじゃないか。
だから俺は自分で払うことにした。
それにしても、実に惜しい。そして日本の未来は暗い。
頭の良い、将来も有望な娘であるにもかかわらず、すっかりオタクの毒に冒されている。
きっと末は官僚か大臣に違いない!
きっとあの子は将来日本を中枢から蝕むことになるだろう!
同性同士の、特に男同士の婚姻制度が認められるような事になれば、
この国は腐り始めたといっていいだろう。
その折にはお兄ちゃんが日本百合の花愛好会とかいう団体を作って政治的圧力をかけるに違いない。
女性同士の婚姻制度が認められるようなことがあれば、そうなったのだと思うことにしよう。

しかし、無能呼ばわりされたことは俺にも責任の一端がないわけではないだけに、
余計に腹が立つ。
この間、休日にデート中に大道寺さんを呼び出してしまった事だ。
俺の手に負えなかったからそうしてしまったわけなのだが…
その時に大道寺さんがすっぽかしたデートの相手が、
他ならぬ美奈ちゃんだったわけだ。
若くて可愛いというだけの生意気でわがままな小娘だ!
しかし、大道寺さんはそんなわがままに振り回されるのも、
まんざら嫌そうではないのだから救いようがない。
だが俺は思うのだ。わがままな女の子が好きだと言っている人種こそ
真にわがままであるに違いない!と。
肉体的、経済的に痛くない程度のわがままが好きだよ〜、と口を揃えてのたまうその人種こそ。
ちなにみ、痛いことにさえ喜びを感じてしまう人種は、
マゾヒストであると認識すべきだろう。
    

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